水源の里 水の源
2025.02.25 | #

詳報 第16回全国水源の里シンポジウム〈佐賀県嬉野市〉

詳報④ 現地視察研修 地場産業振興コース(シンポジウム2日目)
地場産業の現場では -肥前吉田焼と嬉野茶-

肥前吉田焼窯元会館

シンポジウム翌日に行われた現地視察研修。訪れたのはのどかな自然広がる山間の集落 吉田、“肥前吉田焼”と呼ばれる陶磁器の里です。
まずは肥前吉田焼窯元会館に立ち寄り、肥前吉田焼の基本を知ることから視察スタートとなりました。

有田焼と肥前吉田焼

佐賀県と長崎県にまたがるエリアは「肥前」と呼ばれ、今なお多くの窯元が残された地域です。肥前吉田焼は江戸時代から佐賀鍋島藩の奨励によって陶磁器の産地として栄えてきました。九州の陶磁器といえば“有田焼”がよく知られた存在です。かつては吉田で作陶された陶磁器も有田焼に分類され、有田焼の名で市場に送り出されてきました。転機が訪れたのは2000年(平成12年)頃、世間が産地偽装問題で揺れる中、400年以上の歴史を紡ぐ地域本来の名“肥前吉田焼”を名乗ろうという機運が高まり、現在に至ります。

肥前吉田焼の作品がズラリと並ぶ館内

焼き物は地球を壊す?

吉田焼“224porcelain”窯元 辻 諭氏

そんな肥前吉田焼、生活様式の変化などから平成元年をピークに売り上げは大きく落ち込み、窯元の数もずいぶん少なくなりました。職人の高齢化、後継者不足も深刻です。また窯業ならではの問題も抱えています。山を削って陶石を採集、窯を焚いての焼成には多くの二酸化炭素を排出します。
「ある意味地球を壊して得られるのが焼物なんです」と語るのは、今回の視察をナビゲートしていただいた吉田焼“224porcelain”の窯元、辻 諭さん。
さらには、窯に入れられた焼物のうちおおよそ10~20%ほどは不良品となるといいます。辻さんの窯での作陶数は月に1万ほど。毎月1000~2000の不良品が出る計算になります。採算はもちろん、地球環境への大きな負荷。「作り手としては考えものですよね」と辻さんは続けます。

新たな取り組み『えくぼとほくろ』

「職人がどんなに丁寧に作っても1~2割に“小さなくぼみ”や、焼成過程で表面に鉄分が付着することで“小さな黒い点”が出来てしまいます。使用には全く問題はないものの、百貨店や専門店などではお客さんからのクレームが怖くて返品されてしまう。これがすごくもったいない。不良品と判定されたものは、売り場に並ぶことなく産業廃棄物として処分されることも珍しくありません。本来、製造業として不良品が10%も出るというのはありえないことだと思います。私はそれに強い違和感を覚えていました」
「例えば、アーティストが自分の作品を“こども”と呼びますよね。であるなら、私が作り出した陶器たちはすべて“吉田焼のこども”です。ちいさなくぼみや気泡は“えくぼ”、黒い点は“ほくろ”。自分のこどもにえくぼやほくろがあってもかわいいじゃないか。こうした考えに賛同していただいた吉田焼の窯元では“不良品、B級品”という呼び方を止め、“えくぼとほくろ”という新たな規格で販売する取り組みをスタートさせました。同時に窯元訪問・見学も行うことで、焼物が生み出される過程と取り組みについてを知っていただき、“えくぼ”と“ほくろ”のついた商品を納得のうえ購入いただいております。これは非常に好評を得ています」
辻さんのお話の後、続いては窯元訪問へ。
愛らしいキャラクターデザインが特長の副武製陶所(そえたけせいとうしょ)へ向かいます。

焼物ができるまで。ー窯元それぞれの個性が光るー

副武製陶所 窯元 副島 淳さん
愛嬌のある相撲モチーフの意匠

昭和34年創業、現在は三代目の副島 淳さんが窯元を務める副武製陶所。副島さんの窯元では、茶碗や箸置きなどの型づくりは外注し、絵付けと焼成をメインに作陶されています。成型された状態から、素焼き、絵付け、釉掛け、そして仕上げの本窯へ。肥前吉田焼ができるまで、基本的な流れを見学させていただきました。
「うちが得意とするのはスタンプを活用した技法。いわゆるハンコです。模様をひとつひとつ手書きすると非常に時間がかかる。なおかつ同じデザインで仕上げることが困難になります。一定のクオリティを保ち、なおかつ作業を容易にできますからね」と、副島さん。スタンプの元となるデザインは、すべて窯元の副島さんの手によるもの。クスっと笑顔になるような愛らしさは唯一無二の存在感を備えます。
『えくぼとほくろ』にも参画され、肥前吉田焼を次世代へと紡ぐ活動も積極的に取り組まれています。

辻氏が新たに構えた肥前吉田焼の展示スペース
窯入れ前の食器たち。今後も肥前吉田焼は進化していくことだろう

未来へのチャレンジ。さらなる取り組みを

「新たな試み『えくぼとほくろ』。しかし、いくら新規格と謳ってみても、正規品でないことには変わりありません」と辻さん。現在はもっと根本的な問題解決を、と製造における不良率の低下を目指し、新たな土の開発にも取り組まれています。
「昔は不可能でしたが、今の時代だからこそできること。今の時代を生きる陶工としてやらなければいけないこと。例えばデジタルデザインと伝統工芸の融合や、新胎土の開発など、できることはまだまだ沢山あるはずです」
窯元それぞれの考えや個性、取り組みの方法などは様々ですが、目指す先は肥前吉田焼を未来へと紡ぐこと。窯元それぞれの挑戦は、まだ始まったばかりなのかもしれません。

うれしの茶の魅力に触れる

昼食を挟んで、訪れたのは『うれしの茶交流館チャオシル』。嬉野の名産品であるうれしの茶の発展過程を検証し、歴史を学ぶ資料を後世に受け継ぐことを目的に平成30年にオープンした施設です。嬉野での茶栽培の歴史はもちろん、茶摘み・茶染めの体験、また希少な手もみでの釜炒り体験も可能とあって、多くの観光客が訪れる人気のスポットでもあります。
今回の視察では、嬉野での茶栽培の歴史を詳細に解説いただくだけでなく、若手の茶農家への技術継承や、後継者問題について学ぶことで、うれしの茶の今後についてを知る良い機会となりました。

人と出会い、活動を知る

日本各地にある「水源の里」。人口減少や後継者不足、技術継承についてなど、抱える課題は千差万別で一筋縄ではいかないことも確かです。しかし、問題に正面から取り組む人がいる。解決への道筋をつけようとする人々がいる。それぞれの地域で知恵を絞って活動する“同志”の存在は、水源の里に参画する市町村にとって心強い存在ではないでしょうか。今回、嬉野市で開催された『第16回全国水源の里シンポジウム』におきましても、登壇された方、現地視察でお会いした方、お話を伺ったすべての方々が将来への希望に満ち満ちておられたのが印象的でした。

2025.02.25 | #